(2023年5月5日にメールマガジンにて配信された内容を転載しています)
今年2月に開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議において、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化に伴うエネルギーや食料の価格高騰への対応や、国際秩序の根幹を揺るがすロシアの侵略行為を最も強い言葉で非難する議長総括が発表されました。
世界の政治指導者に今求められているのは、ロシアとウクライナの戦争を終結へ導くことであり、世界中の人々もまた、そのことを強く望んでいることは間違いありません。
しかし、ロシアとウクライナの戦況は厳しさを増すばかりで、緊張感と緊迫感が常に漂い、解決の糸口がなかなか見えてこない状況となっています。
さらに今月3日、ロシアの首都モスクワのクレムリンがドローン攻撃を受けたことにより、ロシアとウクライナの情勢は、一気に最悪な方向へと向かっているようにも思えます。
私が、G7の首脳陣が、そして世界中の人々が思い描く“最悪のシナリオ”は、“ロシアによる戦術核使用”であります。
今回のクレムリン攻撃について、2つの見方があります。
ひとつ目は、ロシアが戦術核を使う口実をつくるため、また、国民の士気を高めるため、自作自演のドローン攻撃を行ったのではないかというもの。
ふたつ目は、西側の強力な支援の下、ウクライナ側が戦況を一気に打開するために、モスクワへの攻撃を仕掛けたというもの。
いずれにしても、「ロシア自身が自らの勝手な解釈の下に、戦術核を使う口実をでっち上げられる状況が出来上がった」と言えるのではないかと、私は考えます。
“窮鼠猫を嚙む”ということわざがありますが、今まさに、この状況が起こりつつあるという認識を、G7の首脳陣は持つべきではないでしょうか。
その意味からしても、今月19日から日本で開催されるG7広島サミット2023において、岸田総理が議長として行うべきは、ロシアへの非難決議でも、ウクライナへの武器支援決議でもなく、ロシアとウクライナの停戦決議を明確に打ち出し、政治行動を行うという共同声明をまとめることです。
「ロシアとウクライナの戦争の状況は一変した」この危機的状況の認識を共有することを、決して忘れてはなりません。
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、先月26日、訪米し、バイデン大統領と首脳会談を行いました。
会談後の記者会見では、共同声明「ワシントン宣言」を発表し、核兵器を搭載可能な米国の戦略原子力潜水艦を韓国に派遣し、北朝鮮の核の脅威をアメリカの核の傘で抑止することなどを、米韓両国が確認し合いました。
岸田総理が広島でG7サミットを行う最大の目的は、「“核のない世界をつくる”との強い思いを世界に発信すること」でありますが、「ワシントン宣言」は、“核のない世界をつくる”という目的とは真逆の意思表明であり、このままでは、G7広島サミットにおける“核のない世界をつくる”という宣言が形骸化してしまいます。
このことは、非常に残念であり、米韓両政府が日本との調整を行わずに「ワシントン宣言」を発表したのだとしたら、理解に苦しみます。
岸田総理は今月7日から韓国を訪問し、首脳会談を行う予定ですが、“核のない世界をつくる”ことについて、韓国としっかりと合意できるかどうかが、大きなポイントになるでしょう。
「さあどうする岸田総理」
敗戦国・日本が、その外交能力を問われる戦後最大の正念場が、G7広島サミットなのです。